ADSL乗り換え顛末記  第一部(PCスピードヲタクの挑戦)



2001年9月21日の発表

 2001年9月21日。予想したことが現実となった。そしてそれが、「ADSL導入顛末記」の「後日談」を書くきっかけともなった。「後日談」でASAHIネットからアッカとイーアクセスの8Mbpsプランが発表と書いたのがそれだ。それ以前からADSLの8Mbpsサービスの事はあちこちで発表/報道されていた為、もちろん関心はあったのだが、ASAHIネットという既に加入しているプロバイダが、それ以前の各社の発表と比べてもかなり割安だと思える8Mbpsサービスを発表したのだ。

 アッカイーアクセスの8Mbpsサービスは、G.dmt Annex Cという規格のものだ。この規格は、日本特有の問題らしい「ADSLとISDNの干渉」を抑えつつ、8Mbpsという広帯域(ブロードバンド)接続を可能にした規格だ。フレッッツISDNと大して変わらない低価格の常時接続サービスでありながら、公称速度は実に125倍である。
 「ADSL」、「低価格」といえば、Yahoo! BB(こちらも公称8Mbps)を連想する方も多いだろうが、こちらはG.dmt Annex Aというアメリカや韓国で普及している規格で、日本ではISDNとの干渉を受けて、特に電話局からの伝送距離が長いと、ISDNの干渉を考慮した比較的狭帯域(公称1.5Mbps程度)の規格である、G.lite Annex Cよりも速度が低下してしまうようだ。

 また、プロバイダの面では、元々ASAHIネットは、常時接続の場合でも基本のプロバイダ料金を月額450円と低く抑えているので、モデム兼ルータのレンタル料やNTT回線使用料を込みにした「ADSLでインターネットに接続するための月額料金」でも3967円となる。この辺りは上記の「ADSL導入顛末記」の「後日談」にもう少し詳しく書いている。

 さて、話を9月21日に戻すが、実際問題として、心の中ではこの時既に決心していたのかもしれない。なんせ、「それ」がいつでも実行可能なように、知り合いに一時的に貸していたASAHIネットのアクセスラインを返してもらう作業などを着々と進めていたのだから・・・。だから、「後日談」でも書いた下記の問題点は、実行に移すかどうかの判断材料ではなく、実行に移すにあたって克服すべき問題点という位置づけだったと言う事になる。
 ルータの件はお金の問題だ。プラネックスが安売りして頭に来たりしたが、PCヲタクをやっていればこの程度の悲哀(こんなに急なのは初めてだが)はよく有る話ではある。また、ドルフィンインターネットの件は、時とともに急速に重要度を失っていた。というのも、ドルフィンのメリットは「めちゃめちゃシンプルで使いやすいメールアドレス」なのだが、新しいレンタルサーバのメールアドレスもかなり良いアドレスであるため、少しずつ(意識した面もあるが)こちらを使う機会が増えて行き、ドルフィンの方のメールアドレスを使う機会は殆ど無くなってしまっていたのだ。また、ドルフィンインターネットのプロバイダ料金(プランフレッツ)は、2000円と割高だ。既にASAHIネットには加入しているので、この分がまるまる節約できることになる。

 しかし、最後の問題は簡単にはいかなかった。一度便利さに慣れた身には、2週間といえども、元のモデル暮らしはとても耐えられないという気がしたし、AKIから愚痴り殺されるのも厭だ(笑) また、何より新しいサービスが万一(よりは確率は上か?)うまくいかなかった場合、元のサービスに戻るためにまた長い時間待たされる可能性があるからだ。Yahoo! BBが業界を(ある意味)席巻しており、工事もままならないのではないかという怖い予測は十分真実味を帯びて感じられた。


うむ? 待てよ・・・?

 そんなわけで、「後日談」をアップ後、またもや煩悶しながらサービス案内を眺める日々が続いていたのだが、そのうち、ふとした思いつきが頭の中に棲みつき始めた。同じ電話線で2つのサービスを同時に使うことはできないので、サービスを乗り換える場合はまず元のサービスを解約せねばならない。しかし・・・では、違う電話線ならどうだ? 2本の電話線で別々のADSLサービスを使えば、途切れることなく乗り換えることが可能なのではないか?

 2本目といっても、新たに72000円の「施設設置負担金」を納めて加入する訳ではない。ADSLには、ADSLのみを使用する「タイプ2」というサービスがあり、これなら電話線が有りさえすれば、「施設設置負担金」を払わずにADSLサービスに加入することができるのだ。そして、我が家(マンション)には、初めから2本目の電話線が壁の裏まで来ていた。
  1. 8Mbpsサービスにタイプ2で加入する
  2. うまく開通したら、フレッツADSLを解約する
  3. しかる後、8Mbpsサービスをタイプ2からタイプ1に移行する
という寸法だ。タイプ2だと、月額で2062円のNTT回線使用料(タイプ1は187円)が掛かってしまうので、うまく開通したらできるだけ早くタイプ1に移行せねばならない。

 これがうまくいけば、元のサービスを解約して再加入するやり方に対して余分に掛かるお金は、壁の裏まで来ている電話線を使えるようにする工事料金(ADSL導入時に確認したところでは1万円弱) そして、タイプ2からタイプ1への移行料(3000円程度?)となる。また、月額の回線使用料では、1ヶ月分で2062-187=1875円余分に掛かる。
 もちろん、2つのサービスが重なる期間の料金の話はあるのだが、それだけ早く導入できる訳なので、心情的には計算に入れたくない。計算面倒くさくなりそうだし(笑) まあ、入れたとしても、1ヶ月分4000円程度だと思う。

 整理してみよう。ASAHIネットアッカの8Mbpsサービスに移行する場合、その前後、フレッツADSLのみ加入の時点と、ASAHIネットに完全移行した時点の料金差は下の表の通りだ。なお、この表は、現在のフレッツADSLのアクセスラインであるドルフィンインターネットの分(2000円)も計算に入れているので気をつけていただきたい。

月額使用料金:
  ADSL料金 レンタル費用 NTT料金 プロバイダ代 月額合計
元の月額料金 3100 550 2000+450 6100円
最終月額料金 2830 500 187 450 3967円

 また、その場合の初期費用は下の通りだ。なお、ASAHIネットの場合、初期設定料2000円は2001年12月25日までに申し込めば無料となる。これで、タイプ2の余分月額の1ヶ月分が相殺されると考えることができる。

初期費用:
NTT回線
追加工事
NTT ADSL
工事
8Mbps
初期設定料
8Mbps
開通手数料
タイプ1への
移行料
初期費用合計
10000弱 2000 2000 800 3000円程度? 17800円
※もしかしたら、NTT工事費の2000円は、「1万円弱」の中に含まれるかかもしれない??

 普通に、空白期間有りで8Mbpsに移行する場合に比べて追加でかかる初期料金は約13000円程度と見積もることができる。2週間の空白期間と回線開通のリスクに対してこれだけの出費をする事ができるかどうかが、この方法を採るかどうかの分かれ目である。
 なお、この方法は既に即使用可能な2本目の電話線をお持ちの方なら、最後のタイプ2からタイプ1への移行料のみがこの方法特有の負担となる。逆に、2本目の電話線を引くのにもっと多額の費用を必要とする場合もあり得る。

 つまるところ、私の出した結論は、「GO!」だった。

●確かめるぞ

 既に、青梅では10月1日からアッカの8Mbpsサービスの予約申し込み受付が始まっていたが、10月7日、この方法についてNTTに問い合わせることにした。できれば、窓口でいろいろ聞きたかったのだが、平日昼間というのはなかなか難易度が高いため、116番に電話した。オペーレーターは、またおねちゃんだった。

  俺「えー、ADSLについて聞きたいんですけど」
  オ『はいどうぞ?』
  俺「えっと、ADSLのサービスにタイプ1とタイプ2って有りますけど、例えばタイプ1からタイプ2への
    切り替えって簡単にできるんですか?」
  オ『はい、できますよ』
  俺「じゃ、その逆も?」
  オ『はい』
  俺「ち、ちなみに、NTTさんじゃない業者だった場合でも、問題なくできるんでしょうか? 切り替えの
    時に使えなくなる期間とか有りません?」
  オ『いえ、大丈夫です。業者さんとタイミングを合わせて、1日で切り替えができると思いますよ』
  俺「そうですか。どうもありがとうございました」

 何でこんなに持って回った話し方をしたのかって? それは、「そういうやり方はダメです」といわれるのが怖かったからだ(笑) この後のアッカ/ASAHIネットへの申し込みの際も、「こういうやり方はできるんですか?」とは敢えて質問していない。こんな事をしていると、最後の最後に大どんでん返しを喰らう可能性もあるが、それはそれとしてスリルを楽しむつもりだったのだ(笑)

 10月9日、ノートPCからモデム経由のダイアルアップでASAHIネットに接続し、申し込みフォームに必要事項を書き込んだ。AKI名義(しかも旧姓)で契約しており、回線名義や代表者名が別なので、何かと面倒である。とはいえ、全体的にはすんなり申し込みフォームを送付できた。

 いよいよ、賽は投げられたのだ。まあ、まだ転がりきる前に拾い上げる手もあるしね(後ろ向き)。


●開通への曲がりくねった道

 10月10日、アッカのドメインから早速メールが届いた。

  弊社アッカ・ネットワークスでは、ASAHIネットよりご指示をいただき、
  回線手配を行っております。

とのこと。ただ、この時点でもまだ青梅局は開通に至っておらず、

  「お客様のお申込が本受付への移行確定となりましたら、本受付のご案内をさせていただきます」

という状態だ。予約開始から10日経過しているので、開通までそれなりに待たされる可能性もあるが、急ぐこともない。業界動向を日夜チェックしながら、ゆっくり待つことにした。アッカの青梅局開通は10月19日。アッカからの本受付案内が届いたのは、10月23日だった。

  ○ 現在アナログ回線をご利用で、DSLサ−ビスを利用されていない場合
    別途NTT適合結果の連絡および開通時期の連絡をお待ちください。

とのことだ。「2本目の回線」ではDSLを使用していないので、これに当てはまる。申込日が、予約受付開始から一週間以上後の事だし、フレッツADSL申し込みの時(申込受付開始日の朝申し込み)のようにスピーディには行かないだろうと思った。

 さて、そうしている内に、「ADSL導入顛末記」の「後日談」での私の予測が的中してしまった。10月25日に、NTT東日本がフレッツADSLの8Mbpsサービス(G.dmt Annex C)の開始を発表したのだ。そして、発表日時が書いていないのではっきりした日付は分からないが、ドルフィンインターネットもフレッツADSLの8Mbpsサービスのサポートを表明してしまった。
 ここで、おやと思ったのは、同時にNTT東日本がフレッツの料金を値下げしたと言うことだ。8Mbpsサービスが、それまでの1.5Mbpsサービスと同じ3100円。1.5Mbpsサービスは2900円となる。おまけに、「マイラインに登録すれば、更に1割引」という。このサービスには、他社より「公平でない」との訴えが総務省に出されているようだが、どうやら12月から開始されてしまった。
 さて、ここで一発、また料金比較をやってみよう。

   初期費用(NTT込み) ADSL月額 レンタル月額 NTT回線料 プロバイダ料金
(asahi-net)
月額料金合計
Yahoo! BB 3600円+ルータ代 990円 550円 187円 1290円 3017円
アッカ 6400円 2830円 500円 187円 450円 3967円
フレッツADSL 6400円+ルータ代? 3100+430円 550円 450円 4530円
フレッツADSL
+マイライン
6400円+ルータ代? 2790+430円 550円 450円 4220円

 Yahoo! BBに対してはともかく、アッカイーアクセスに対しては、フレッツADSL+マイラインがかなり近づいている事が分かる。元々インフラを握っているNTTだけに、安心感を求めてこちらを選ぶ余地は出てきたと言える。
 しかしながら、残念なことにドルフィンインターネットの発表は「料金はこれまでのフレッツADSLと同じ」というものだった。「ASAHIネットを解約して、ドルフィンインターネットに絞る」という可能性は、これで完全になくなってしまった。

 私に関して言えば、この発表によってタイプ2を使って乗り換えるメリットが少し減じた事になる。しかし、フレッツADSLの8Mbpsサービスは12月から都区内の一部で受付を開始するのみで、青梅に届くのは少し先になる事と、その頃、フレッツADSLの1.5Mbpsサービスの回線速度が目立って低下して来ていた事が、私のブレーキを踏む足に力を入れさせなかった。

 約1.1Mbps程度の実効速度を保っていたフレッツADSLの1.5Mbpsサービスだが、その頃には500Kbps〜800Kbpsと、まるで導入初期のような速度に落ち込んでしまっていた。もちろん、MTU値やウィルスバスターなどの対応は済んでいる。また、タイミング良く同じマンションのフレッツADSL使用者と話す機会があり、そこでも「最近遅くなってきましたよねー」という話になった。フレッツADSLの背後は、地域IP網という、NTTが独自に張り巡らせたネットワークを経由してプロバイダに繋がっている。この地域IP網は、接続者が増えるとかなり重くなってくるのではないかとの噂を聞いていた。ADSLの加入者が来て、ここの限界が見えてきた可能性もある。
 ちなみに、この想像がそれ程外れていない証拠に、最近、NTT西日本が8Mbps開始を前に、地域IP網の大規模なな増速工事を行うという報道もある。

 これに対して、アッカは、インターネットのバックボーンへの接続にATM(Asynchronous Transfer Mode)を使っている。ATMとは、光ファイバーの性能を最大限に引き出すことができる通信方式らしい。アッカでは、この通信方式を使ってプロバイに接続する。だから、フレッツADSLでよく聞く「PPPoE(PPP over Ethernet)」に対して、「PPPoA(PPP over ATM)」という接続方式になる。
 また、アッカは自社サイトで敢えて「純粋なベストエフォートではなく、安定したサービスが提供できるような回線設計を行っております」と説明する辺りも、将来的なトラフィック増大に対する見通しを持っていると思えた。
 これが故か、通信速度測定のサイトであるブロードバンドスピードテストにある「統計情報」を見ると、アッカのADSLの特性(パフォーマンスの分布、線路長とスループット等)は高い位置で安定しており、グラフの曲線も滑らかだ。これは、物理的な減衰以外に技術的な問題がないことを表しているように思えた。

 これらの情報を総合的に判断して、私の出した結論は、やはり「GO!」だった。



第二部へ続く


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