ADSL導入顛末記 第四部(チューニング!パッチング?!)
●ブロードバンドの死角
最初にそれに気づいたのはAKIだった。7月18日、帰ってきてみると、「電話が掛かって来ると通信が中断(切断?)される、これでは恐ろしくてウルティマがやれない」という(AKIにしてみれば)切実な訴え。ウルティマオンライン(UO)では、例えばモンスターと戦う際には、自分のキャラにヒーリング(体力回復)を掛けながら戦うことが多い、また、急にキャラの近くにモンスターが沸く事がある。悪い属性のモンスターは、近くにプレイヤーが居ると無条件で攻撃してくる。つまり、通信が中断(切断)された場合、ヒーリング出来ないままモンスターにタコ殴りにされる可能性があるのだ。(一応自動反撃はするけど)
そのままモンスターに殺されると、持ち金や持ち物、装備一式を失うだけでなく、キャラの「名声」パラメータが大幅に低下するので、泣きの涙なのである。もっとも、それでゲームが終わりになるわけではない。・・・というか、このゲームに終わりはないのだ。詳しくは、UO公式サイト(あんまり情報源にはならないかな)か、AKIのUOページ、もしくは検索サイトでUOサイトを捜して参照のこと。
早速再現実験をやってみた。Web参照中に携帯から電話を掛けてみたが、確かにデータ通信が中断もしくは切断される。復帰のためにはルータやADSLモデムを再起動する必要があるようだ。その時点で考えられる原因は、回線のノイズだった。通信用のノイズフィルタと、スプリッタ−ADSLモデム間のケーブル長(付属のケーブルは結構長い)の短縮化で改善が見られるかどうかを確認することを考えた。とはいえ、ここまで来ると明らかにサービスの支障だ。そこで、7月20日にNTT(116番)に電話して、「ADSLでデータ通信中に電話が掛かってくると通信が切れる」とクレームを入れた。
オペレータのお姉ちゃんから、係りらしい兄ちゃんに替わったので、再度クレームを入れる。兄ちゃんは比較的丁寧に、ありがちな初歩的ミスを犯していないかを確認してきたが、こちらがノイズフィルタでの対策のことまで持ち出すと遂に「業者に調査に行かせます。今日は祭日(海の日)で、土日を挟むので月曜になってしまいますが・・・」と言ってきた。来るのは(AKIがいるから)いいけど、「お金掛かるんですか?」と尋ねると、「お金が掛かる工事が必要となった場合、事前にやるかどうか確認します」との返事。全体的に丁寧で、好感の持てる対応だった。
●MTUを弄(いじ)るぞ!
通信が切れてしまう問題は大きいが、それと同時に気になるのが通信速度の問題。これに関しては、PCの情報サイトや、検索したWebサイトなどで事前に調べていて、多少の目処があった。知っている人も多いと思うが、高速通信を行う場合、Windows95/98では、MTU(Maximum Transmission Unit)というパラメータが速度に影響を与える事があるのだ。この値は、PCがインターネットとデータのやり取りを行う場合のデータ単位(パケット)の大きさを規定するものだ。
これが何で通信速度に影響があるかというと、
という理由からだ。
- Windows95/98はモデム等の遅い通信に最適化された、小さいMTU値に固定されている
- MTU値が小さいと、高速通信時、実際のデータ量に対して通信の手間に掛かる時間が大きくなる
この論理は、パケット(小包)という単語から発想をすると分かり易くなる。例えば、膨大な量のポケモングッズを同じ場所へ、幾つもの小包に分けて送らなければならないとする。この際、小さな箱しかない場合は、一度に送れるポケモングッズの量が少ないため、全部のポケモングッズを送るまでに沢山の箱を使わなければならず、箱へポケモングッズを詰めてガムテープで封をする手間(時間)、伝票に宛名書きをする手間(時間)が大きくなる。これに対して、大きな箱を使える場合は、全部のポケモングッズを送るまでに使う箱の数が少なくて済む。従って、上記の手間(時間)が小さくなるのだ。また、この事は小包を受け取る側にも言える。小包を受け取る回数が減れば、宛名を確認し、受け取り印を押し、封を開け、ポケモングッズを取り出し、受け取った旨を送り主に連絡する手間(時間)が小さくなる。
モデムやISDN程度の速度ならば、1パケット毎の処理で「ちょっとずつ」遅くなったとしても、全体の通信速度には殆ど見えてこないだろう。しかし、高速通信では、1パケット(例えば1454byte)を送受信する時間が小さくなるので、パケットの処理時間(モデムやISDNの場合と同じ)が相対的に大きくなってしまう。この結果、本来出せるはずの最高速度が出なくなってしまうのだ。
ここまでの論理を理解した人の中には、「何故遅い通信の場合には小さいMTU値でいいのか?」という疑問をもたれたかもしれない。「最初から出来るだけ大きなパケット(小包)サイズにすればいーじゃん」と。これはどうやら、パケットがうまく届かなくて再送信する際の手間との兼ね合いらしい。一度に送るサイズを大きくし過ぎると、再送信に掛かる時間もまた大きくなってしまうからだ。多分。
要するに、このMTU値を大きく設定してやればいいのだ。しかし、上記の通り、通信の根幹にかかわる設定なので、Windows95/98ではMTU値は固定値となっており、コントロールパネル等から設定値を変えることは出来ない。しかし、値はレジストリには記述されている。そ。あくまで自己責任で、レジストリを書き換えるのである。
●弄り初め
レジストリ。要はWindowsの諸設定を記録しておく場所。ここの設定値がおかしくなると、PCが正しく動作しなくなったり、最悪はOSクラッシュと言うことになる。実は、Windowsディレクトリには、Regeditというレジストリの編集ソフトがある。しかし、これでレジストリを直接弄るのは極端に危険。ほんのちょっとした操作ミスで、PCが致命傷を負ってしまうこともあり得る。(Windows3.1の頃は、これで画面の解像度を弄ったり、日本語フォントを変えたりした物だが)
しかし、そこはネット時代。そんな危険なことをしなくても、MTUを設定してくれるオンラインソフトはネット上に沢山ある。もちろん、それを使って何か問題が発生したとしても自己責任なのだが、そういうソフトに任せた方が安全度は遙かに高い。
検索サイトで、「MTU」をキーワードにして検索した結果辿り着いた(というか筆頭にあった)個人サイトは、情報の宝庫だった。リンク許可は取っていないので、ここにはリンクを張らない(あ、別にリンク張ってる他のサイトも許可を取ったわけではないけど、個人サイトなので)が、「つっくんのホームページ」というのがそれだ。ここの「超お勧め MTU調整」というページには、MTUをはじめとするいろんなパラメータの解説や、MTU調整ソフト、レジストリバックアップソフトの紹介ページ、レジストリ変更パッチ、それからMTU調整の結果、どんなに速くなったかを報告する掲示板などがある。ここだけ行ってりゃ大丈夫と言っても過言ではないサイトだと思う。
ここで使い方まで詳細に解説されていた「EasyMTU」という調整ソフトと、レジストリのパッチ(?)、それと、リンクを辿って「ERM」というレジストリのバックアップソフトを入手した。
EasyMTUを選んだのは、実測して、最適のMTU値やRWIN (Recieve Windows Size)値を教えてくれる機能があるためだ。 ちなみに、このRWINという値は、「受け取ったよー」という確認連絡無しに一度に送れるデータ量を規定するものだ。上のMTUの説明と似たり寄ったりで、一度に送れる量を大きくすれば応答の回数が減り、それだけ効率よくデータを送ることが出来る。
まず、ERMを使ってレジストリのバックアップを取った。これは必須の手順だ。こうしておく事によって、設定変更の結果何か不都合があった場合でも、すぐに元の状態に復帰できる。実際、この後試行錯誤の途中で何度もレジストリの復帰を行った。何か問題が起きて、Windowが起動できなくなる可能性もあるが、その時の為にこのソフトは基本的にDOSベースで動くようになっている。DOSプロンプトからソフトを実行して、バックアップファイルを書き戻すのだ。実行した結果、10個のファイル(その中には、command.comやio.sys等、MS-DOSの頃からおなじみのファイル達も含まれていた)が圧縮バックアップされた。
ところが、EasyMTUで最適なMTU値、RWIN値を確認しようとしたところ、何故かソフトがフリーズしてしまう。OSまで飛ぶ事はないのだが、これでは肝心のMTU値設定まで行かない。うぬぬぬ・・・やっぱりそんなものなのか?ADSLぅ!
そこで、直接レジストリを変更するレジストリのパッチを導入することにした。これは、レジストリのかけらで、ファイルをダブルクリックする事により、かけらに含まれるレジストリの設定値を設定することが出来る。「つっくんのホームページ」で推奨されている、「MTU=1454、RWIN=16384」の設定値を適用してみた。再起動し、ドキドキしながらぷららのADSL速度計測サイトへ行ってみた。結果は・・・450Kbps〜600Kbps。なんでじゃぁ!!
●お、お前かぁぁぁぁあああ!
期待を掛けていたMTU値変更がうまくいかず、正直ガックリ来た。速度バラツキも大きいし、やっぱりノイズの仕業かなぁ。このままの速度で我慢するしかないのかもしんない。月曜にNTTが来て通信切断と全体的な不安定さが解消されれば、ISDNの10倍なんだから、ま、いっかー。この上もっと速くなんて、贅沢な話しだよね、うんうん。
すっかり私は諦めモードに入ってしまった。
そんな頃、7月20日の午前中に、私は何気なく(既に何度も行った)FLET'Sの公式サイトに行き、何気なく「お知らせのページ」(今は「お役立ち情報」の中にまとめられている)を覗いてみた。すると、「トレンドマイクロ社製「ウイルスバスター2001」をご利用のPCにおいて、フレッツ接続ツールをご利用すると発生する事象について」というページがあったのである!
現象は、
お、おめぇさん、そいつぁまさか? いや待て、前やった時はウィルスバスター外しても速くならなかったぞ? などの思いが頭を駆けめぐったが、ともかく指定のトレンドマイクロのホームページへ飛んだ。
- ブルースクリーン等をおこし、正常に通信できない
- スループットが低下する
「正常に通信できない」方は、「パーソナルファイヤーウォール機能」が「フレッツ接続ツール」と競合しているためだそうだ。確かに、私の環境でも、「フレッツ接続ツール」アンインストールしてルータ接続にした結果、安定度がかなり上がった。更に読み進むと、「スループット低下」の原因はウィルスバスターの「WebTrap」という機能と、「URLフィルタ」という機能が原因と書かれてあった。いずれも、インターネットにアクセスする際、悪意のサーバから自分のPCを守るための機能だ。「フレッツ接続ツール」と競合していという訳ではないらしい。
それで分かった。ウィルスバスターを外して速度計測した際、ブラウザ起動時に「WebTrap」の起動画面が一瞬見えたのを思い出したのだ。あの時は、メインとリアルタイムモニタは終了していたが、WebTrapはブラウザ起動時に再び起動していたいに違いない。つーか、そんくらい気付けよ! > その時の俺
この問題への対策パッチは、既に公開されていた。具体的には、ウィルスバスターのレジストリにを変更するためのレジストリファイルの形だ。MTU設定の時と同じく、ファイルをダブルクリックするだけで適用される。上記の機能を外しても問題は解決されるが、セキュリティレベルを下げて速度を上げるというのは、何となく憚られる。というわけで、パッチを当てることにした。
平常脈拍にピタッと安定していた心臓が再び活性化する。ドキドキしながらPCを再起動して、ぷららのADSL速度計測サイトへ、その結果は・・・750Kbps〜900Kbps! おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
●遂に、念願が!
我が家でADSLの通信が始まって以来、450Kbps〜600Kbpsという範囲から出たことの無かった通信速度が、明らかな改善を見せた。ウィルスバスターのサイトには、現象の説明として「通信速度が600Kbps程度に制限される。」と書かれていた。ピタリと符合する。やはりウィルスバスターが原因だったのだ。
と、すると、元々何をやっても600Kbps止まりだったわけだから、MTU値の調整にも希望が出て来るではないか。弄ったMTU値は、もちろんレジストリを復帰して元に戻してあった。念のため、もう一度「つっくんのホームページ」に行く。他の見落としが無いか、もう一度チェックするためだ。そしたら、見落としがあった! Windows95/98、それからNT4.0は、TCP/IPのモジュールにバグがあり、バグを修正しないとMTU値を調整してもうまくいかない可能性があるというのだ。95/98修正パッチはここにある。'vtcp.386' というファイルをアップデートする必要があるらしい。95については、ダイアルアップネットワークのアップデートも必要だ。
早速、vtcp.386のアップデート(ちなみに、このvtcp.386はLANカードのドライバをインストールする際にバージョンチェックに引っかかって、上書きするかどうか確認してくる。上書きしないように注意)を行い、再度レジストリのかけらを適用してみた。そんで、再起動した後、もちろんの場所へ。その結果・・・・・・900Kbps〜1.1Mbps!! うっしゃぁぁあああああああ! 遂に、念願の「1Mbps超」を達成した! 掲示板等での話しでは、1.3Mbpsくらい出た話がゴロゴロしているが、ともかく「1Mbps超」だ。ISDN(実効)の約20倍である。PCスピードヲタクとも思えない発言だとの指摘が聞こえてきそうだが、元々アナログ信号であり、最大値が出ないのは覚悟していたので、とりあえず「1Mbps」は十分満足の行く速度だった。
速度が満足の行く水準となったので、重いページを開いて差を体感してみることにした。よく行くページの中で、重いページを考えてみたが、思いついたのは2つ。一つは、秋葉原のPC部品情報が満載されている「AKIBA PC Hotline!」だ。情報満載なのだが、紹介写真が数多く掲載されているので、モデムやISDNではちと辛めである。また、もう一つのサイトは友人のホームページ。私主催の鍋大会やバーベキュー等のイベントの模様を撮影してくれたデジカメ写真が満載されている。これもモデムやISDNでは結構辛い。
それらのページを開いてみて・・・ぬぅ! 思わず唸ってしまった。もちろん速いからである。特に、1ページ中に細かい写真が沢山あるAKIBA PC Hotline!では、マウスのホイールによるスクロールが写真の読み込みに追いつかないのだ。友人のページでも、大きな写真をビュンビュン読み込む。
圧巻は、巨大ファイルのダウンロード時間だった。試しに、約13MBのファイルをダウンロードしてみたところ、何と1分30秒しか掛からなかったのだ! 『快適』という以外に無い。
こうして、「通信速度が思ったより出ない」という問題は一応の解決を見た。相変わらず速度のバラツキが大きいため、やはりノイズの影響はあるのかも知れないが。
だが、もちろんもう一つの問題がまだ解決されていなかった。「通信中に電話が掛かってくると通信が中断する」という問題だ。また、Web閲覧中などに一時的に通信が止まり、やがて回復するという問題も、頻度は低いとはいえADSL開通から終始発生している。
23日月曜日に行われるNTTの調査を待って、週末はこの状態で使い続けることになった。